生成 AI と患者向け資料

このブログ記事は、生成 AI とそれがライフ サイエンス業界にもたらす変化に関するライオンブリッジの連載記事の最新回です。前回の記事では、生成 AI が影響を与えると予想される分野について概要を示しました。今回は、患者のヘルス リテラシーと患者向け資料を取り上げていきます。特に、医薬品や医療機器に関する情報を、患者向けにわかりやすい表現で提供する際の課題についてお話しします。新たに生まれた AI テクノロジーはこのような課題に対処できるのでしょうか。

患者向け資料における課題

新薬や新しい機器を市場に投入するには、長く複雑なプロセスが伴います。大量の文書が作成されますが、その多くが科学者によって書かれた専門家向けの内容になっています。それ自体は問題ではありませんが、患者や公共の安全を確保するために、規制当局は新しい治療法の効果を評価する厳格な証明責任を課す必要があります。

しかし、規制当局も認識しているように、承認プロセスの利害関係者は科学者や専門家だけではありません。何年にもわたって被験者保護法が施行されている一方で、欧州医薬品庁 (EMA) などの機関では、臨床試験を一般市民に対して広く透明化することについて、懸念が強まっています。前回の記事でも説明しましたが、EU 臨床試験規則 (EU CTR) には現在、一般向け要約に対する要件が盛り込まれています。

透明性を高めることは重要ですが、それを実現するのは必ずしも簡単ではありません。患者向け資料をわかりやすい表現で作成するのは、多くの人々が思っているほど簡単ではないのです。この課題の詳細については、一般向けの表現とヘルスケアに関するこちらの記事をご覧ください。

AI が患者向け資料の改善やコミュニケーションの強化を促進する可能性について

生成 AI システムは、複雑なコンテンツを要約するスキルをすでに備えていますが、難解な医療文書でもうまく要約できるのでしょうか。ここでは、進行した多発性硬化症における免疫調節に関する BMJ の記事を要約するよう要求した場合の Bing の応答 (ChatGPT を使用) を紹介します。

決して悪い要約ではありません。元の記事の半分程度の長さになっており、比較的うまく構成されていると言えます。対象となる研究の目的の説明から始まり、重要な結果もほとんど含まれています。また、著者の結論も正確に説明されています。

しかしながら、要約の大部分が元の記事を逐語的に引用して作られています。結果として、難解かつ冗長で、専門用語が盛り込まれた文章になっています。そこで、簡単な表現でもう一度挑戦するよう要求しました。

よくなりましたが、わかりやすさを追求するあまり、重要な詳細が多数抜けています。たとえば、研究対象となった治療が何かわかりません。さらに、「関連付いている」といった表現を省略することで、リスクに関する著者の結論を誇張してしまっています。

もちろん、これは適正なテストとは言えません。Bing の AI チャット ツールはプレビュー段階の製品であり、今回使用した方法も決して厳密ではありません。生成 AI テクノロジーは今後も改善することが見込まれており、適切なトレーニングを行うことで、はるかによい結果が期待できます。ただし、依然としていくつかの制約が残る可能性もあります。前の投稿で概説したように、一般の人々に合わせたコンテンツを作成するには、複数の分野を網羅したスキルが必要になります。単語や語句の選択、文章の長さ、レイアウト、書式設定、規制当局のガイドラインの遵守も重要であるほか、元の記事に記載されている結果を正確に要約することも重要です。

ライオンブリッジでは、こうした AI の活用方法の可能性について積極的に研究を続けています。原文テキストの複雑さを数値化する高度な手法などはすでに実装して取り入れています。当社では、当社の使命とも言うべきイノベーションに対する継続的な取り組みを通じて、最新のテクノロジーをお客様へのご提案に今後も活かしていく予定です。生成 AI は、適切に管理された環境下で活用すれば、大幅な生産性向上を可能にするテクノロジーです。こうしたテクノロジーの進化により、当社をはじめとするライフ サイエンス業界のお客様は、患者や一般向けのコンテンツの幅を広げることができるようになるでしょう。また当社では、AI を活用するサービスだけでなく、専門家チームによるさまざまな一般向け言語サービスもご用意しています。こちらもぜひご検討ください。

お問い合わせ

患者向け資料に関するサポートをお求めであれば、ぜひ当社までお問い合わせください。当社は過去数十年にわたってライフ サイエンス翻訳サービスをさまざまなお客様にご提供してきた実績を持ち、その中で多くの専門知識を蓄積してきました。医療機器翻訳サービスや臨床試験関連翻訳などのベスト プラクティスについても十分に熟知しています。下記のフォームよりお問い合わせいただければ、言語サービス業界をリードする当社の担当者が詳しくご説明いたします。