ディスラプション シリーズ: 新型コロナウイルス (COVID-19) により EU MDR 発効が延期

パンデミックにより、遅延と質問に悩まされていた規制の発効が延期に

ライオンブリッジの連載記事「ディスラプション シリーズ」の第 8 回。新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) がもたらした危機的状況の中で医療業界に起きている変化を、当社ライフ サイエンス部門のエキスパートが解説します。

  長年にわたって実施されてきた欧州医療機器規制 (MDR、2017/745) は、欧州の医療機器メーカーだけでなく、医療機器の評価、製造、流通に関与する第三者認証機関や事業者など、医療機器を取り巻くエコシステムにも大きな影響を及ぼしています。4 月 17 日、欧州議会は EU MDR の発効延期を公式に発表しました。この延期は、4 月初めに欧州委員会から提出された、発効日 (DoA) を 1 年延期する提案書を受けて決定されたものです。延期は EU 加盟国の緊急手続きを経て可決され、4 月 23 日、MDR の改正 (規制 EU 2020/561) が欧州連合の官報に掲載されました。これは 2020 年 5 月 26 日に予定されていた発効日のわずか 1 か月前のことでした。

EU はなぜ MDR の延期を発表したのか

COVID-19 が発生したタイミングは、医療機器業界にとって非常に大きな負担となりました。パンデミックの真っただ中で、大きな規制変更が予定されていたのです。業界関係者は、COVID-19 への対処に必要な医療機器を確保しながら、重篤または慢性疾患の患者に対して他の重要な医療機器を供給しなければならない中、現在の EU システムの弱点と安全性の不備に対処することを目的とした、より厳格な新しい EU MDR 要件への対応も迫られる状況でした。この 3 つのニーズはいずれも、患者の健康と安全に影響を及ぼすという点で倫理的な重みを帯びています。そのため現在の状況は、医療機器業界と規制当局にとって、まさに前例のない重い負担となっています。欧州委員会は、業界や規制当局が COVID-19 への対応を優先できるよう、MDR 発効を延期するという欧州委員会の提案書を採択しました。必要に迫られた苦渋の決断でした。

MDR の発効延期をもたらしたその他の問題

この延期は MDR のみに影響しますが、MedTech Europe は IVDR の発効も延期するよう欧州委員会に促しました。現時点では、IVDR の発効は 2022 年 5 月 26 日に予定されています。欧州委員会はこれまで、MDR に基づいて認定された第三者認証機関が不足しており、業界向けガイダンスが欠けていることから、MDR の規制施行日を遅らせるよう奨励されてきました。 MDR に準拠するために準備しているメーカーは、先の読めない状況に悩まされてきました。NANDO (第三者認証機関に関する欧州委員会のデータベース) によると、MDR に基づいて指定された第三者認証機関は、これまでに申請を行った 44 機関のうち 13 機関のみです。EU MDR の発効延期は、昨年発表された Eudamed (医療機器に関する情報を保持するデータベース) の 2 年延期に続くものです。Eudamed は、当初は 2020 年に MDR と並行して開始される予定でした。欧州の規制当局は、MDR の延期を軽々しく考えることはありませんでした。この点からも COVID-19 を取り巻く状況がこれまでにないものであることがわかります。「前例のない挑戦」、「異常な状況」、「莫大な負担」、「前例のない規模」などの強調的な言葉が盛り込まれた修正法案を読むだけで、COVID-19 による危機と延期の深刻さは明らかです。

延期期間中にどのような臨床的明瞭度が得られるか

MDR の延期は、医療機器調整グループ (MDCG) が 4 月に発表した 4 つの重要な臨床評価ガイダンス文書と同時に発表されました。

  • MDCG 2020-5: Guidance on Clinical Evaluation – Equivalence
  • MDCG 2020-6: Guidance on Sufficient Clinical Evidence for Legacy Devices
  • MDCG 2020-7: Guidance on PMF Plan Template
  • MDCG 2020-8: Guidance on PMCF Evaluation Report Template

これら 4 つの文書では、MDR 下の臨床評価要件について、長く待ち望まれていた業界向けガイダンスが提供されています。MDR の第 61 条では、CE マーク取得前の医療機器の性能や安全性を実証するものとして、「sufficient clinical evidence (十分な臨床的証拠)」という概念を導入しています。しかし、この用語は MDR では明確に定義されておらず、2017 年に MDR が発効して以来、「十分な臨床的証拠」の規制強化に対して多くの疑問が生じる結果となっています。MDCG による新しいガイダンスではその定義が明確になり、「十分な臨床的証拠とは、機器が安全であり、意図された利益を達成するという結論に達した、認定された評価の現在の結果として理解される」とされています。「現在の結果」という用語はかなり一般的な表現ですが、臨床的証拠が継続的な責任であることが明確に示されています。メーカーは、機器のライフサイクルを通して継続的な臨床評価プロセスを実施することが求められます。EU 域内で CE マーク取得を希望するすべてのメーカーは、臨床評価計画と、各機器について得られた臨床的証拠と結果を含む臨床評価報告書を文書化しなければなりません。また、市販後臨床フォローアップ (PMCF) を実施して、機器の予想耐用期間中の安全性と性能を確認する義務があります。

EU における医療機器の臨床ルートとは

簡単に言えば、医療機器の臨床性能および安全性能を実証するために必要な技術的証拠は、CE マークを取得するための 2 通りの規制ルートによって得られます。「実質的同等性」ルートでは、対象の機器がすでに市販されている機器と同等であることが主張され、実証されます。「臨床試験」ルートでは、管理された臨床試験の設定で対象の機器がテストされます。実質的同等性ルートは、完全な市販前の規制審査を必要としない機器の市場認可を得るために、EU と米国の両方で広く使用されています。しかし、MDR 下では実質的同等性アプローチは困難になりました。同等の市販機器が競合他社によって製造されている場合は特にそうです。その場合、競合他社の機器の完全な技術文書に継続的にアクセスする必要があるため、契約上の問題が生じます。自社の市場シェアが縮小することになるのに、自社の完全な技術文書を競合他社に開示しようとする企業がどれだけあるでしょうか。

メーカーはどこで支援を得られるか

競合他社の技術データにアクセスできないことから、メーカーは臨床試験を通じて独自の臨床データを作成せざるを得なくなります。十分に管理された臨床試験は費用と時間がかかり、インフラと専門知識を必要とします。大部分の Class III 機器および埋込型機器については、MDR 下で臨床試験が必須要件となります。医薬品の場合と同様に、医療機器の臨床試験は、適正臨床実践 (GCP) の適用を受け、ISO 14155 規格に準拠する必要があります。2021 年に MDR が発効すると、CE マークを得るための他のルートがもはや有効でない場合、メーカーは臨床機器試験の実施という課題に直面する可能性があります。インフラと GCP の専門知識に加えて、国際的な臨床機器試験では、患者が EU 加盟国間で登録される際に必要な試験の承認を得るために、より多くのコンテンツと翻訳が必要となります。臨床試験の参加者に対するすべての連絡事項は現地語で書かれ、倫理的な承認を得る必要があります。これには、インフォームド コンセントのフォーム、ラベリング、使用説明書や、患者報告アウトカムのような患者から直接得られるデータなどがあります。GCP と医療機器の両方に関して長年の実績を持つ言語サービス プロバイダーと連携することは、臨床試験を円滑に実施し、言語に起因する矛盾やコンプライアンス ギャップをなくす上で非常に重要です。ライオンブリッジには、20 年以上にわたって GCP 試験に不可欠な臨床関連の文書を翻訳してきた実績があります。医薬品と医療機器の両方の臨床試験スポンサーと連携し、あらゆる市場で信頼性の高い臨床データを得られるよう、必要なサポートを提供してきました。翻訳のライフサイクル全体を効果的に、そして効率よく管理するための知識と技術力を兼ね備えた当社ライオンブリッジでは、次のようなサービスを提供しています。

  • 臨床試験の承認
  • ラベリング
  • 患者報告アウトカムの言語的検証
  • 平易な言語で書かれた「安全性と臨床性能の要約」 (SSCP)

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Pia Windelov
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